シマウマ
10月13日夜、
道の駅「こまつ木場潟」で私はある男と出会った。
箱を積んだバイク。
その隣にテント。
ボードには日本一周の文字。
同業者だ。
夏はたくさん見かけた同業者も、
今回はまだ会っていなかった。
こちらから声をかけてみる。
「こんばんは〜」
彼は料理していた。
フライパンで何かを茹でている。
彼は靴下を料理していた。
いや、彼は靴下を洗っていた。
道の駅で靴下を茹でる。
この男、おもしろい。
ツイッター上の彼の名はシマウマ。(ユーザー名・IDは以下)
シマウマ@日本一周マン
@zebra_rx
彼は旅に出てからまもなく100日が経過する。
しかし彼の旅はまだ半分あたりのところだ。
信じられないほどのスローペースである。
これには当然理由がある。
彼には、
お金が無い。
出発時の所持金は500円。
彼はお金が無くなるたびにその地で雇われ先を探し、資金を集める。
あのボイルドソックス(茹で靴下)もこれで納得がいく。
彼の野宿は決まって道の駅である。
彼はキャンプ場へは行かない。
何故なら、彼はついこの間までテントすら持っていなかったからだ。
雨の日には傘をさして、
地面に体育座りをして眠ったこともあったという。
彼は北海道でさえテント無しで生きぬいた。
あの知床半島で野宿したとき、
夜中に目が覚めると隣に自分よりもデカい熊がいたこともあったそうだ。
私が今旅初日に体験した、
「ドッキドキ!妄想バトルVS熊!!」
とは天と地ほどの差があることは言うまでもない。
食問題も深刻だ。
彼の愛車はZX-12R
ハイオクで、8キロ/L。
そんな超燃費最悪のバイクに跨るシマウマは何を食う?
雑草だ。
といってもいつもというわけではない。
そういう時期もあったということだ。
働かなければ次に進めないくらい貧乏なのだから、雑草を食べるくらいはみなさんも理解、納得していただけるだろう。
だがしかし、彼が口にしたのは雑草だけではない。
このシマウマ、
過去にはセミやカブトムシも食したという。
これにはさすがに言葉を失った。
頭の中は「?」で埋め尽くされた。
言葉の意味を理解するのにしばらく時間を要したのは私だけだろうか。
彼の旅はそこまで追い込まれたものらしい。
そしてアブラゼミよりクマゼミの方がジューシーだったというこれまた反応に困るトリビアを授けてくれた。
彼がいて心強かったので、
私もここで夜を明かすことにした。
ちょうど今彼は資金補充真っ只中で、
この道の駅もすでに3泊している。
ここは彼の家。
彼は全てを知っている。
この道の駅の設備という基本的なものから、朝7時頃になるとカラスがゴミを漁りに来るけど人に危害は加えないという非常にコアのものまで教えてくれた。
寝床として彼に勧められたのは自販機の後ろの芝生の部分。
昨日は別の旅人に勧めて、その人もここに寝たという。
つまりここは彼の家の客間だ。
客間に案内された私は遠慮なくテントを張らせていただいた。
漂う安心感はキャンプ場とは比べようがないほどだった。
この後も夜の雑談は続き、常識では考えられないようなエピソードをいくつも語ってくれた。
しかし彼の破天荒ぶりはすでに伝わっていると思うので、ここでは省略させていただく。ご了承
久しぶりに安心して眠ることができた。
道の駅の裏のハイキングコースに熊出没注意の看板があったが、彼は全然大丈夫と言ってくれた。
だから大丈夫なのだ。彼が言うのだから。
ここは彼の家なのだから。
朝が来た。
彼はすでに目覚めていた。
朝8時から仕事が始まるそうだ。
「お前まだいたのか!!」
地元の人に声をかけられるシマウマ。
こう言われることはよくあるそうだ。
いつも同じところに何泊もするので、
必然的に地元の人と顔見知りになるのだ。
私にはとても新鮮だったが、彼にとってはいつものこと。
地元の人と談笑する野宿の旅人。
道の駅でこんな光景を見ることができるなんて考えてもみなかった。
むしろあんなところにテントを張ったら煙たがれるのではないかという不安さえ抱いていた。
しかしその不安は彼のおかげで解消された。
(道の駅に野宿をする旅人はたくさんいる。だいたいは黙認されるが撤退を命じられることもある。シマウマは何度か経験済み。)
それは、
私がこんなことあったら楽しいだろうな、と心のどこかで憧れていたものそのものだった。
その後もキャンピングカーで車中泊していたおじ様にカップラーメンをいただいた。
どこに行っても自然と地元に溶け込むことができる。
彼がどれだけ魅力的な人物かおわかりいただけただろうか。
彼の旅はまだまだ終わりが見えない。
滞在する土地もたくさんあるだろう。
そして彼はいつものようにその土地に溶け込むのだ。
バイクの奥で談笑する地元民
燃費最悪の愛車
日本一周を達成したとき、
全国各地に彼を知る者がいるのかもしれない。
その男、
名を シマウマ と言う。